大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)82号 判決

原告

社会福祉法人忠恕福祉会

右代表者理事

松下孝

右訴訟代理人弁護士

巽貞男

正木丈雄

井上啓

藤木敏之

岩谷基

被告

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

川合孝郎

右訴訟代理人弁護士

滝井朋子

右指定代理人

木村泰司

奥田正行

野口敬司

田中哲男

田中敏明

被告補助参加人

ユニオン・おおさか

右代表者執行委員長

新村賢二

右訴訟代理人弁護士

武村二三夫

平方かおる

主文

一  被告が大阪府地方労働委員会平成五年(不)第二五号不当労働行為救済申立事件について平成八年四月五日付けでした命令のうち、主文第1項及び第2項の交付を命じた文書(1)項に関する部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含めてこれを二分し、その一を原告の、その余を補助参加人及び被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が大阪府地方労働委員会平成五年(不)第二五号不当労働行為救済申立事件について平成八年四月五日付けでした命令をすべて取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  補助参加人は、平成五年五月一八日、原告を被申立人として、被告に対し、救済申立をしたところ、被告は、平成八年四月五日付けで別紙命令書のとおりの命令(以下「本件救済命令」という。)を発し、同日、右命令書を原告に交付した。

2  しかし、本件救済命令は、事実認定及び法律の解釈を誤った違法なものであるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

三  抗弁

本件救済命令は、労働組合法二七条、労働委員会規則四三条に基づき適法に発せられた行政処分であって、認定事実及び判断は別紙本件救済命令書理由欄記載のとおりである。

なお、救済命令の要件として、将来における同種不当労働行為が繰り返される具体的危険性の存在は要求されるものではなく、いかなる救済方法を採用するかは労働委員会の合理的な裁量によるものであり、本件救済命令はいずれも合理的な裁量の範囲内に存するものである。

四  抗弁に対する原告の認否及び主張

1  本件救済命令書理由欄に対する認否

同理由欄第1のうち、2(4)の事実、2(7)のうち新屋浩世(以下「新屋」という。)らがホーム喫茶実施に反対した理由が管理上の問題であるとする部分、3(10)のうち新屋の欠勤の理由が病気であるとする部分、3(34)のうち原告理事として出席した竹中良美(以下「竹中」という。)がメモを読んだにとどまり、補助参加人からの理由の説明要求を拒否したとの部分をいずれも否認する。

同理由欄第2の1ないし6の各(2)に認定の事実はいずれも否認し、判断については争う。

2  本件救済命令主文第1項及び第2項の交付を命じた文書の(1)項に関する部分(本件救済命令書理由第2の5)について

(一) 平成五年度の昇級(ママ)において、新屋の昇級(ママ)額が、他の寮母より低額となったのは、同人の勤務成績及び勤務能力の不良によるものであって、同人の組合活動を嫌悪して不利益に扱ったものではない。考課の対象となった新屋の勤務態度については、平成五年三月三一日に同人に交付した注意書(本件救済命令書第1の3(35)に記載)に主なものが記載されているが、考課の対象はそれに限定されるものではない。以下に、若干敷衍する。

(二)(1) 平成四年三月、原告が設置経営する特別養護老人ホームかわきた園(以下「かわきた園」という。)の施設長山下が退職し、同年四月一日、緑間百合子(以下「緑間」という。)が、同園の実質的な責任者として、その副施設長に就任したが、新屋は、同月二日の寮母会議において、開口一番に「なんで男の園長でなく女なんだ。」と緑間に反抗する言動をし、緑間を補助するために同席していた奥村幸裕(以下「奥村」という。)が、かわきた園の行事表、日勤表はこれからは園長が決めると発言するや、「ホームの行事は今までどおり寮母が決める。」「園長は口出しするな。」などと発言した。これは、自分より若い女性である緑間が副施設長に就任し、仕事内容の締め付けをし始めたので、それまで古参寮母として好き勝手をしてきたのが今後はできなくなることに対して反感を抱いたためである。

奥村は、同月三日、新屋に対し、日勤表等を園長において決めることを説明しようとしたが、同人は、このときも「今まで通りでいいんや。園長は口出しするな。」などと述べて反抗し、原告理事として同席した松宮栄子(以下「松宮」という。)から注意を受けたのである。しかし、新屋には、反省の態度は全くなかった。

(2) 緑間は、平成三年五月一日に監督官庁たる大阪府から送付された監査指導結果に、「リハビリテーション及びクラブ活動等が低調であるので、入所者の身体的及び精神的条件に応じ、機能を回復し、又は機能の減退を防止するための訓練を積極的に行い入所者処遇の向上に努めること。」と記載されていたので、「お茶の時間」や「ホーム喫茶」、「夕方の散歩」等の新しい活動を寮母会議で提案したにもかかわらず、新屋は、これらにことごとく反対し、老人介護についての話し合いの申入れを無視する態度をとり続け、他の寮母にも自分の意向に従うように強要し続けた。

(3) 新屋は、かわきた園に入所している老人に対し、やさしく対応したり、親切な寮母がいると、その邪魔をした。すなわち、

〈1〉 老人から便の訴えがありポータブルで排便させると、そんなことをするから老人が甘えると文句を言う。

〈2〉 老人がかゆがるので身体をふいて着替えさすと、余計なことをしてと文句を言う。

〈3〉 また、入院する老人を玄関まで送っていく寮母に対して、親切すぎると発言する。

(4) かわきた園においては、老人に対するおむつ交換は床ずれを防ぐための体位交換の意味から数時間毎に行われており、ラッピーナイトという保水量の多いおむつを使用しておむつ交換を省くことは禁止されていた。しかし、新屋は、平成三年一〇月から平成四年五月ころまで、夜勤時、徘徊癖のある老人をおむつ交換することにより起こしてしまうことを防ぐという理由で、禁止されているラッピーナイトを使用し、かつ、夜中の午前二時のおむつ交換をしていなかった。

また、夕食時、老人を食堂に誘導し、食事の介護をするなど職員が一日のうちで最も忙しい時間帯をわざわざ選んで、植木の水やりをして老人の誘導や食事の介護を怠けていた。

(5) 新屋は、デマや虚偽の情報を流し、同僚に不安を与えて職場を混乱させた。具体的には、新屋は、かわきた園の寮母御﨑淳子(以下「御﨑」という。)に対し、電話で、「理事長があんたをやめさすというふうに聞いてる。」と事実無根の話を述べた。

(6) 新屋は、社会福祉法人秀英会(代表者理事松下孝)が設置経営する特別養護老人ホーム生駒園(以下「生駒園」という。)に出向した後の平成四年一二月二八日から平成五年一月三日までの年末年始において、当初、平成四年一二月三一日に公休の希望をしていたところ、同日は、希望者が多く、話合いの結果、新屋は同月三〇日が公休となり、同月三一日は出勤日となった。しかるに、新屋は、当日になって同月三一日を欠勤し、自分だけ平成四年一二月二九日から平成五年一月一日まで四連休を取得し、職場は寮母が足りなくて困った。

新屋は、平成五年一月二日、平成四年一二月三一日の欠勤を事後的に年次有給休暇とする旨届け出たので、右生駒園副施設長関博明(以下「関」という。)が、事後に年次有給休暇として取り扱うことはできない旨説明したところ、新屋は、顔色を変えて、「組合に相談する。」と息巻き、了解しなかった。これは、新屋に協調性がなく、寮母としての適格に問題があることを示すものである。

(7) 新屋には、老人介護をする職場の職員ないし福祉の職場人であるとの自覚と責任感が欠如している。すなわち、

〈1〉 面倒くさいといって入所老人のつなぎ服に個々の名前を書かず、M、Lのサイズ表示で囚人の様に扱っていた。

〈2〉 生駒園において老人を風呂を(ママ)入れるときに、生駒園のやり方を無視して自分勝手に水を入れて後からお湯を入れる方法で調節をし、生駒園の四、五人の年配の寮母から、「そんなことしたらお年寄りが、風邪をひくやないか。」と注意された。

(三) 考課査定は、使用者が公正な人事管理を行う人事権の行使であるところ、それ自体としては、客観的にみて労働組合の団結権を侵害するおそれのある行為であるとはいえないから、考課査定は、不当労働行為意思を決定的理由として行われた場合にのみ、不当労働行為となると解すべきである。

平成五年度定期昇給における新屋の考課査定については、右のとおり、同人に、弱者である老人の介護者としてふさわしくない行為があったと判断し、また、新屋の緑間を初めとするかわきた園に対する反抗はかわきた園の命令系統を無視し、その秩序をいたずらに乱すものであると判断した結果、同人に対する平成五年四月の昇給を基本給三〇〇〇円と他の寮母より低額に抑えたものである。なお、右に挙げた事実の大部分は、新屋が補助参加人に加入した平成四年九月二日までのものであり、新屋の組合活動とは無関係に右考課査定がなされたことはいうまでもない。また、補助参加人の組合員ではない寮母御﨑についても、考課査定の結果、平成五年度定期昇給が低く抑えられており、これからしても、新屋に対する考課査定が不当労働行為意思を決定的理由として行われたものではないことが明らかである。

3  本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書の(2)項に関する部分(本件救済命令書理由第2の1)について

(一) 平成五年三月三〇日の原告と補助参加人との団体交渉(以下「本件団交」という。)において、原告交渉担当理事として出席した竹中は、単にメモを読み上げたのではなく、補助参加人の要求事項に対して十分に説明した。補助参加人は、本件団交において、竹中のした回答についての説明を求めなかったのであって、説明拒否はあり得ない。

(二) 団体交渉における原告の交渉態度が誠実か否かは、本件団交における原告の態度のみならず、その前後の交渉経緯全般を含めて判断されるべきところ、原告は、本件団交において、補助参加人から新たに提出された要求事項につき、団体交渉を開催できない間の応急策として、本件救済命令理由第1の3(34)及び(38)に認定されたとおり、平成五年四月九日、竹中をして、補助参加人に対して電話で回答させるというように誠実な態度で交渉に応じた。

(三) さらに、原告は、平成五年一一月一五日以降、交渉担当者を増加して団体交渉に応じ、補助参加人が救済を求めた平成五年二月一九日付け団体交渉申入れにおける各要求事項についても交渉を継続した。したがって、仮に本件団体交渉において不当労働行為の事実があったとしても、以後継続してなされている右団体交渉により、右不当労働行為の事実はなかったと同じ状態になっているのであって、被救済利益はなく、将来において同種の不当労働行為が繰り返される危険性もない。

4  本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書(3)項に関する部分(本件救済命令理由第2の2)について

(一) 原告が、補助参加人から送付された補助参加人かわきた園支部(以下「組合かわきた園支部」という。)宛の郵便物を開封したのは、意図的ではなく、かわきた園へ配達される郵便物が大量であるうえ、右支部宛の郵便物が市役所等の公共団体から送付される郵便物と酷似していたため、誤ってしたものにすぎない。

(二) また、原告が補助参加人から送付された組合かわきた園支部宛の郵便物を返送したのは、補助参加人の組合活動を妨害することを目的としたものではない。右各郵便物に、かわきた園の住所の他に、「ユニオン・おおさかかわきた園支部御中」との宛先が記載されていたが、かわきた園には、組合かわきた園支部の事務所は存在しなかったので、原告が右郵便物を同支部の役員らに手交するか否かは、専ら原告の施設管理権の問題であるところ、かわきた園では、従前から、入所老人宛の郵便物以外は受け取らない旨の慣行が存在していたし、原告も、補助参加人に対し、組合かわきた園支部宛郵便物を交付する旨約束したこともない。なお、緑間は、補助参加人書記長福井工(以下「福井」という。)から、平成五年一月二七日及び同年二月一日、組合かわきた園支部への郵便物交付依頼を受けて「わかりました。」と返答したものの、右返答は、補助参加人からの郵便物を交付することを了承した趣旨ではないし、そもそも緑間には補助参加人に対して右のような便宜供与をする権限がない。

したがって、原告による右郵便物の返送は、施設管理権の濫用にわたるものではなく、補助参加人に対する支配介入であるということはできない。

(三) 福井は、平成五年二月一日及び同月九日の二回にわたり、緑間から、郵便物の開封及び返送につき文書で謝罪され、同月一日、「今回は仕方がない。」として宥恕したし、原告は、同年六月七日以降、組合かわきた園支部役員伴シズ子(以下「伴」という。)に対し同支部宛の郵便物を交付していること、その後に同様の郵便物返送ないしは開封が行われていないことからすると、仮に右郵便物の開封及び返送が不当労働行為に該当したとしても、現時点においては、右不当労働行為の事実はなかったと同じ状態になったので、被救済利益は消滅し、また、将来において同種の不当労働行為が繰り返される危険性もない。

5  本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書の(4)項に関する部分(本件救済命令第2の3)について

使用者の言論が、労働組合に対する支配介入となるためには、右言論が、客観的に組合活動に対する非難と、組合活動を理由とする不利益取扱いの暗示を含んでおり、かつ、かかる言論により、労働組合の運営に影響が及ぼされたことが必要である。

しかしながら、原告が作成、公開した「かわきた園騒動記」(以下「騒動記」という。)及び「伴寮母の復職についての裁判所の見解と今後のとりくみ」(以下「復職について」という。)と題する各書面には、いずれも補助参加人を誹謗中傷する文言も、組合活動に関する記載も一切ないし、右両書面によって補助参加人の運営に影響が及ぼされた事実もない。

6  本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書の(5)項に関する部分(本件救済命令理由第2の4)について

(一)(ママ) 原告が、かわきた園において、就業規則にない特別休暇を実施していた趣旨は、労働時間短縮に伴う職員の負担増加等を調査・研究するための試験的なものであり、平成三年六月から職員の定員が足りている時期に断続的に実施したにすぎなかったので、原告がこれを廃止した平成五年四月当時、右特別休暇は民法九二条により法的効力のある労使慣行となっていたとはいえないものである。したがって、そもそも原告がこれを廃止するのは自由であったばかりでなく、原告が右特別休暇を廃止したのは、補助参加人が、右趣旨を理解せず、その制度化を要求したため、原告が将来の人員不足等の発生を懸念したためであって、支配介入を目的としたものではない。

したがって、原告の右特別休暇の廃止は何ら支配介入に当たらない。

五  原告の主張に対する補助参加人の主張

1  原告の主張2について

(一) 原告が新屋の平成五年度の定期昇給を他の従業員と比較して低額に抑えたのは、正当な考課査定に基づくものではなく、原告が補助参加人を嫌悪し、その組合員たる新屋が組合活動をすることを嫌った結果にほかならない。

なお、原告は考課の対象が平成五年三月三一日に新屋に交付された注意書に記載された事項に限らないというが、使用者が労働者の賃金の基礎となる考課査定にマイナス評価をする場合に、その理由の一つ一つについて労働者が知ることは労働者の当然の権利であり、これを知らせることは使用者の当然の義務である。右注意書は、平成五年度定期昇給に当たってなされた一五項目にわたる考課査定を記載した文書であり、新屋にとっては、右マイナス評価の基礎となった理由を知るための文書である。そうすると、右注意書に記載のない点をマイナス評価の理由とすることができないのは当然である。

(二)(1) 新屋が、「なんで男の園長でなくて女なんだ。」「ホームの行事は今までどおり寮母が決める。園長は口出しするな。」などと発言した事実はない。新屋は、平成四年四月三日の寮母会議において、緑間に対し、一か月の行事はミーティングで寮母が決めていきたい、男性の従業員も必要である等発言したが、これは、それまでの寮母としての経験からの要望を申し述べたにすぎない。

(2) 新屋は、ホーム喫茶の実施には反対したが、お茶の時間、夕方の散歩等には反対したことはない。新屋がホーム喫茶の提案に反対したのは、これにより寮母の人手がとられ、本来の老人ホームとしての管理上の問題が生じることが明らかであったため、これを指摘したにすぎない。

(3) 新屋が、入所老人にやさしく対応する寮母の邪魔をしたということはない。ただ、入所老人への対応も特定のわがまま老人の要求にだけ応じることには問題があり、全寮母で統一的な扱いをする必要があるので、その旨の指摘をしたことがある。すなわち、かゆがる老人の清拭については、全寮母で統一的な介護をするため、その回数や時間が決めてあり、その決定を守るべきであるという正当な理由のある発言である。

(4) 新屋がラッピーナイトを使用したのは、徘徊癖のある老人を起こさないという正当な理由に基づく。しかも、これは、前施設長山下の許可を得て行っていたもので、他の寮母も使用していたものである。また、新屋が植木の水やりをしたことはあっても、それによって食事の配膳に遅れたのは数分であって、これによって食事介護や配膳をすべて他の寮母にさせたというものではない。

(5) 新屋が御﨑に電話をしたことはあるが、デマを流して職場を混乱させたことはない。

(6) 平成四年一二月三一日の件については、新屋は、平成四年一二月二九日夜勤明けであったので、平成四年一二月三〇日から平成五年一月一日まで三連休となったというのが正しい。

新屋が平成四年一二月三一日になって急に欠勤したのは、風邪で高熱が出たためである。したがって、右欠勤自体は、特に責められるべき理由はない。また、病欠を事後的に年次有給休暇に振り替えることは従前からなされたことであり、これもまた特に責められる理由はない。

原告は、新屋の態度が協調性に欠けると主張するが、新屋の勤務態度はむしろ勤勉かつ誠実であり、特に問題はなかった。原告による右評価は、かわきた園の管理強化を進めようとした原告にとって、経験豊富で補助参加人に加入して労働者の権利を主張する新屋の存在が目障りなものであったためになされたというのが真相である。

(7) つなぎ服の使用については、新屋だけが使っていたのではないし、M、Lという表示も新屋が書いたのではない。その文字があるとしても、特に責められるべき内容ではなく、また、新屋が、生駒園において、他の寮母と異なる方法で湯を張ったとしても、現実に何の支障も生じておらず、責められることではない。

2  原告の主張3について

(一) 竹中は、本件団交の席上で、メモを読み上げただけで、補助参加人の要求事項については説明しなかった。そこで、補助参加人が回答メモ以上の説明を求め質問をしたのに対し、一切回答できないと答えたのである。

以上によれば、本件団交は、補助参加人の要求事項に対して実質的な回答を一切しなかったもので、誠実な交渉とはいえず、結局団体交渉応諾義務違反というべきである。

(二) 竹中は、福井に対し、平成五年四月九日、本件団交席上で補助参加人から提出された要求事項について電話で回答をしたものの、その内容は形式的、一般的なものにとどまり、実質的に意味のあるものではなかった。

なお、原告は、平成五年一一月一五日以降、形式的には団体交渉に応じているが、そもそも原告側の三人の出席者はいずれも経営に関して何らの権限も有しない者であるし、原告は、年末一時金の支給基準と年度末手当の支給基準以外の事項については、一切回答しないか一方的な拒否回答しかしない。したがって、依然として原告の不誠実な交渉態度が継続しており、被救済利益が消滅したとはいえない。

3  原告の主張4について

(一) かわきた園へ配達される郵便物は、一日当たり五、六通であり、宛先を一々確認できないほど大量ではない。また、原告により開封された補助参加人からの郵便物は、サイズも色もまちまちであり、市役所等の公共団体からの郵便物と混同するとは、通常の注意力からは考え難い。

(二) かわきた園においては、従業員宛の私信やダイレクトメールも受けとっており、入所老人宛の郵便物しか受けとらないという慣行は存在しなかった。

緑間は、福井から、平成五年一月二七日及び同年二月一日、補助参加人からの郵便物を伴に手渡すように依頼された際、「分かりました。」と回答した。右回答の趣旨は、原告が、補助参加人からの右申出を承諾したとしか理解できないものである。しかるに、原告は、従業員宛の私信等を受けとりながら、組合かわきた園支部宛の郵便物のみを開封あるいは返送したのであるから、仮に原告の施設管理権の問題であったとしても、その濫用にわたることは明らかである。

(三) 福井は、緑間に対し、平成五年二月一日、右郵便物の返送につき文書で謝罪された際、「今回は仕方がない。」と発言したが、右発言の趣旨は、過去のことはもはや取り返しがつかないという意味であって、宥恕の趣旨は含まない。原告による郵便物の開封は、同年二月一九日にも行われており、郵便物の返送は、補助参加人が被告に対して不当労働行為救済申立て(平成五年五月一八日)をするまで継続して行われた。不当労働行為の審査及び訴訟終了後に再び不当労働行為が反復されない保障はないのであるから、被救済利益が消滅したとはいえない。

4  原告の主張5について

「騒動記」及び「復職について」は、直接的に補助参加人を誹謗中傷する文言や組合活動に関する記載を含んでいない。しかしながら、「騒動記」中の「一連の人事」とは新屋の生駒園への出向、伴の解雇を指すことが明らかであること、原告が右文書に「騒動記を読んだ各園職員の感想」を付して新屋に交付したことからすると、右文書により攻撃の対象とされた五名の寮母グループとは、組合かわきた園支部役員である新屋及び伴を含む寮母を指すことが容易に推認できる。

そして、右文書の内容が、従業員に注意を促すというより新屋や伴を誹謗中傷することに徹していること、平成五年一月八日、かわきた園、生駒園及び秀英会設置経営の特別養護老人ホーム六万寺園(以下「六万寺園」という。)の従業員に対して配布されたこと、同年三月二二日の右三園の合同オリエンテーションにおいて、原告代表者により読み上げられたことからすると、右文書は、暗に組合かわきた園支部役員である新屋や伴を誹謗中傷することにより同人らを職場の中で孤立させ、従業員の補助参加人加入を阻止する意図をもって作成されたことが明らかというべきである。

5  原告の主張6について

(一) 生駒園では従前より毎月二日、かわきた園では平成二年より毎月一日の特別休暇制度を導入していた。原告及び秀英会は、平成四年一一月一日付けのかわきた園並びに六万寺園寮母、介助員及び院内清掃パート従業員の募集広告、平成五年二月二日付けの看護婦求人広告において、特別休暇制度が存在することを明記した。したがって、少なくともそれ以降に原告及び秀英会に採用された寮母については、特別休暇は雇用契約の内容となったものである。そして、右求人広告以前に採用された従業員についても、新規採用者以下の労働条件とは考えられないので、特別休暇が当然雇用契約の内容となったというべきである。

(二) 補助参加人は、原告代表者に対し、平成四年九月二二日の原告との団体交渉の席上、かわきた園、生駒園、六万寺園の三園で特別休暇の日数を統一するように求めたところ、原告は、同年一一月三〇日、生駒園で「特別休暇の支給について」と題する書面を配布し、「職場の心得」に違反した職場又は欠員の生じた職場において特別休暇を廃止することに異議がない旨示すためとして、従業員に署名を求めた。また、原告は、右三園において、同年一二月、補助参加人の考え方からすれば、特別休暇は即刻中止した方がよいかもしれないと記し、さらに補助参加人に所属する生駒園の新屋のみが「特別休暇」のサインをしないので生駒園の寮母は特によく議論して右休暇を廃止するかどうか検討するようにとの趣旨が記載された「就業規則にはない『特別休暇扱』について」と題する書面を職員に配布した。原告は、平成五年三月五日、特別休暇を三月で廃止するが従業員がまとまるときは再度特別休暇を検討する旨の書面を掲示し、同月七日には特別休暇を廃止するか否か迷っている旨の書面を掲示し、かわきた園においても特別休暇の廃止に関する書面への署名を求め、同年四月から生駒園及びかわきた園で特別休暇の付与を停止した。

(三) 以上のように、補助参加人は、雇用契約の内容となっており、現に従前より継続して行われてきた特別休暇の統一実施を求めたところ、原告は、補助参加人が到底納得できないことを十分承知の上で、新屋ら補助参加人組合員に対し、特別休暇の廃止に関する書面に署名を求め、新屋らがこれに署名しないことを逆手にとって、特別休暇を廃止したのである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  当事者及び本件救済命令の存在

弁論の全趣旨によれば、原告は、肩書地に本部を置き、大阪府寝屋川市河北東町において特別養護老人ホームかわきた園を経営する社会福祉法人であって、その理事は松下孝であること、補助参加人は、肩書地に主たる事務所を置く個人加入の労働組合であり、平成四年九月二日、原告の従業員である新屋及び伴が加入し、組合かわきた園支部が結成され、新屋が支部長に、伴が書記長に就任したこと、新屋は昭和六二年六月に、伴は平成三年九月に、それぞれ原告に雇用された者であること、伴シズ子は平成四年八月三一日解雇を告知されたが、地位保全等仮処分の決定を経て、平成五年一月一四日、復職し、新屋は、平成四年九月一日、原告代表者松下孝が理事を兼ねる社会福祉法人秀英会が設置経営する生駒園に出向したこと、秀英会は、六万寺園をも設置経営していることの各事実を認めることができる。そして、補助参加人は、平成五年五月一八日、原告を被申立人として、被告に対し、救済申立をし、被告は、平成八年四月五日付けで本件救済命令を発し、同日、右命令書を原告に交付したことは、当事者間に争いがない。

二  本件救済命令主文第1項及び第2項の交付を命じた文書(1)項に関する部分(新屋に対する平成五年度定期昇給)について

1  (証拠・人証略)、原告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告は、平成三年五月一日、監督官庁である大阪府から、「入所者の状況を充分考慮し、嘱託医の意見を踏まえた上で入所者の個別処遇方針を策定すること」、「リハビリテーション及びクラブ活動等が低調であるので、入所者の身体的及び精神的条件に応じ、機能を回復し、又は機能の減退を防止するための訓練を積極的に行い入所者処遇の向上に努めること」等の指摘を受けていた。かわきた園の施設長は、平成四年三月三一日まで、山下であったが、山下は、同年二月ころ、原告に退職を申し出、その際、かわきた園においては寮母等の抵抗にあって大阪府の指摘事項を実施できない旨を告げた。原告は、山下の代わりには、緑間を雇用して、同年四月一日、副施設長とした。なお、施設長としては、古川勝美を就任させたが、同人はかわきた園には常駐せず、緑間がかわきた園の実質上の統括者であった。従業員は、緑間のことを、副園長あるいは園長と呼んだ。

(二)  緑間は、同年四月一日、かわきた園に着任し、同月二日に寮母会議がもたれた。なお、右会議には、六万寺園の園長であった奥村が、新任で福祉施設における業務経験の浅い緑間を補助する目的で同席した。新屋は、緑間と顔を合わせるのは、この日が初めてであったが、開口一番、「なんで男の園長でなく女なんだ。」と発言し、従前は従業員が自主的に調整していた作業表や行事表、日勤表について、奥村から、今後は、園長において決めると説明すると、これに反対して、これらの日程は自分たちで決めると主張し、「園長は口出しをするな。」と発言した。

(三)  奥村は、同月三日、新屋に対し、日勤表等を園長において決めることを再度説明しようとしたが、同人は、このときも「今まで通りでいいんや。園長は口出しをするな。」などと述べて反抗した。そのため、原告では、松宮が、その理事という立場で、同月六日、かわきた園に赴き、新屋に対し、口頭で、自分たちで好き勝手に決めず、命令系統をよく守ること等の注意をした。注意事項としては、ほかに、自己主張ばかりせず、他人の話をよく聞くこと、寮母会議では、自分の意見なのに全員の意見だと言わないこと等もあった。

また、新屋は、緑間のことを、この人と呼んだり、姓で呼ぶので、緑間において、副施設長と呼んで下さいと要望したこともある。

(四)  緑間は、かわきた園に着任直後から七月にかけて、毎朝の歩行訓練及び屈伸運動を行う歩け歩け運動、入所老人にコーヒー、紅茶、ビール等を飲んで楽しんでもらうホーム喫茶、おやつの時間、夕食後に空地や老人公園で憩う夕方の散歩、寮母の作成する壁新聞、リハビリとしての避難訓練の六つの行事を新設、変更、回数の増加を寮母会議に提案した。

しかし、新屋は、「後から来て机の上のきれい事を言ってもらっては困る。私らは五年のキャリアでものを言っている。」「動く人だけ動けばいい。」と言って右企画にことごとく反対し、新屋を含む五名が緑間に反対するグループと化する状態となり、緑間において、同年七月二八日、従業員の融和を図って食事会を開くも、新屋ら五名が欠席した。同年八月一〇日には、緑間と奥村が新屋ら五名と話し合ったが、新屋らは、緑間に協力することを約束しなかった。このような状態で、ホーム喫茶以外は実施まで平均して約一か月を要し、ホーム喫茶は実施まで約二か月を要した。

(五)  また、新屋は、入所老人の便の訴えにポータブルの便器で排便させた寮母、かゆがる老人について身体をふいて着替えさせた寮母、入院する老人を玄関まで送っていく寮母に対して、余計なことをする、親切すぎると文句を言った。

かわきた園においては、老人に対するおむつ交換は床ずれを防ぐための体位交換の意味から数時間ごとに行われており、ラッピーナイトという保水量の多いおむつを使用しておむつ交換を省くことは禁止されていたが、新屋は、平成三年一〇月から平成四年五月ころまで、夜勤時、徘徊癖のある老人をおむつ交換することにより起こしてしまうことを防ぐという理由で、禁止されているラッピーナイトを使用し、かつ、夜中の午前二時のおむつ交換をしていなかった。

更に、新屋は、夕食時、老人を食堂に誘導し、食事の介護をするなど職員が一日のうちで最も忙しい時間帯に、植木や個人的に野菜を栽培しているプランターの水やりをして老人の誘導や食事の介護を怠けたことがある。

(六)  新屋は、御﨑に対し、電話で、「理事長があんたをやめさすというふうに聞いてる。」と事実無根の話を述べたことがある。

(七)  新屋は、平成四年一二月二九日、三一日、平成五年一月一日に公休を取得する希望を生駒園に提出していたが、平成四年一二月三一日の公休希望が多かったので、同月三一日の公休希望を変更し、実際の公休日は同月三〇日と指定された。しかるに、新屋は、同月三一日、三八度五分の高熱が出たとして欠勤した。そして、平成五年一月二日に欠勤届を提出し、これを年次有給休暇に指定するように求めたが、これについて、関が事後に年次有給休暇とすることはできないと述べたところ、新屋は、年末年始については、予め、年次有給休暇は行使しないように告げられていたにもかかわらず、組合に相談すると言って息巻いた。

(八)  原告、平成五年三月三一日、新屋に対し、同月分の賃金を支給する際に、原告代表者名義で本件救済命令書第1の3(35)に記載の一五項目が記載された注意書を交付した。

3(ママ) なお、原告は、新屋に福祉施設で働く者としての自覚と責任感に欠けるとして、老人に着用させるつなぎ服に個人名を書かず大きさを示すアルファベットで表示したこと及び風呂の湯の調節方法で注意されたことを主張するが、その主張の事実自体が福祉施設で働く者の自覚と責任感の欠如を示すとはいえないものである。

4  次に、新屋は、「なんで男の園長でなく女なんだ。」という発言をしたことはないと言い、平成四年四月二日の寮母会議では、男性従業員が必要であると発言したにすぎない旨述べるが、新屋が、前述のように、緑間をこの人と称するなど、同人に反発したことは明白であり、(証拠略)の記載からも、新屋が緑間に対し反抗していたことは十分に認められ、これに(証拠略)を併せ考慮すれば、新屋が右発言をしたことを認めることができるというべきである。新屋としては、施設長の交代に当たり、男性の施設長を期待していたのに、施設長に代わる副施設長として女性の緑間が就任したことから、右発言になったと推認される。

また、新屋は、行事表や勤務表を園長が決めるとの発言に反対したことについて、就任したばかりの緑間の負担を軽減するためであったと供述するが、採用できない。ただ、寮母会議において、施設長の方針と異なる意見を述べたからといって、そのこと自体を消極評価の対象とすることはできないが、前述の新屋の言動は、単なる反対意見の域を超えているといわなければならない。

新屋は、その勤務態度に関する事実についても、縷々弁解するところであり、それなりの理由はないではないが、全体としてみれば、自己の仕事を楽にしようとの傾向が窺われるもので、これを正当化することはできない。他の寮母が入所老人に親切に対応することに文句を言うなどは過ぎたるものである。

平成四年一二月三一日の欠勤については、真に病気であれば、その欠勤を咎めることはできないであろう。ただ、後になって、その日を年次有給休暇にするように求め、これを拒否されたことに納得せず、組合に相談するといって息巻いたのは、年末年始は多くの従業員が休暇を希望する時期であることを考慮すれば、これを協調性がないと評価されてもやむを得ないところである。

5  以上認定の事実に鑑みると、新屋は、平成四年四月一日に就任した緑間に反発し、緑間が提案した新たな行事等に非協力的な立場を貫いたうえ、その勤務態度においても、禁止されていたラッピーナイトという紙おむつを使用し、深夜のおむつ交換を省き、また、植木の水やりをして夕食時の配膳等を怠けるなど怠惰な面があり、他の寮母が入所老人に親切心をもって接しようとするとこれに苦情を述べて牽制し、加えて、虚偽内容の電話をするなどして他の寮母に不安を与えるなどの行為があったもので、原告が、これらの事実から、右新屋を給与規則二五条の「勤務成績又は勤務能力の極めて悪い者」に該当すると判断して、基本給引上額を三〇〇〇円にとどめたことには合理的な理由があるというべきである。補助参加人は、平成四年三月以前の事項及び平成五年三月三一日の注意事項以外を考課の対象とすべきでないと主張するところであるが、これらを考慮しなくても、前記認定の事実からすれば、右原告の考課査定は是認できる。右事実に加え、平成五年度定期昇給は新屋の他に非組合員である御﨑も定期昇給額を新屋と同額に抑えられたこと、組合かわきた園支部役員の伴は他の寮母と同額の定期昇給額であったことを併せて考慮すれば、新屋の定期昇給額が低額に抑えられたのは、補助参加人を嫌悪し、これを理由に新屋を不利益に取り扱ったからであるとは認められない。

6  したがって、原告が新屋の平成五年度の定期昇給に当たって基本給引上額を他の寮母より低額の三〇〇〇円に抑制したことについて労働組合法七条一号の不利益取扱いに該当するとした被告の判断は失当であり、被告がその誤った判断に基づいてい(ママ)た本件救済命令主文第1項及び第2項の交付を命じた文書の(1)項に関する部分は違法である。

三  本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書(2)項に関する部分(本件団交)について

1  (証拠略)によれば、次のとおり認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  補助参加人は、原告に対し、平成五年二月一九日、平成五年四月の賃金から基本給を二万円引き上げること、年次有給休暇の付与日数を初年度一〇日、勤続一年で一二日とする等の改善を行うこと、労働時間短縮に関し、完全週休二日制の達成のための目標年次を明確にするとともに、現行の特別休暇をかわきた園、生駒園、六万寺園とも月二日で統一すること、日勤寮母に対しても特殊業務手当を支給すること、年度末(三月)に支給している差額手当の支給基準を明確化すること、賃金、労働条件に関する事項、組合員の配置転換等に関する事項及び組合員の解雇等に関する事項については、補助参加人と原告とが事前に協議し、合意のうえで実施することの六項目を要求し、これら議(ママ)題とする団体交渉を同年三月二日に開催するよう申し入れた(以下「二・一九団交申入れ」という。)。

右申入れに対して、原告からは何ら応答がなく、同年三月一日、補助参加人の書記長福井において、原告代表者方に電話したところ、原告代表者の妻が応対し、竹中に連絡するように告げた。そこで、補助参加人は、同月二日、原告に対し、団体交渉申入書を送付し、二・一九団交申入れについて、同月八日又は九日に団体交渉を開催するように求めたところ、竹中が、同月八日に補助参加人に電話で「理事会を開かなければ団交はできないと福井書記長に伝えてくれ。」と連絡してきた。その際、補助参加人は、竹中に理事会の開催日を尋ねたが、竹中はこれに答えなかった。そのため、補助参加人は、同月一七日、二・一九団交申入れについての応諾を求めて、被告にあっせん申請をした。原告は、ここにおいて、団体交渉に応じるとして、あっせんを辞退した。

(二)  補助参加人と原告との団体交渉は、同月三〇日、原告の本部において、原告の担当者として竹中、補助参加人側から、書記長福井と新屋及び伴が出席して開催された。竹中は、本件団交の席上で、二・一九団交申入れの各要求事項につき、あらかじめメモを作成し、そのメモの範囲内で回答した。具体的には、賃金の引き上げについては地場賃金にあわせて決するので要求を受け入れられず、年次有給休暇の付与日数の改善については法律では初年度〇日、二年目は八日であるが、原告は初年度六日、二年目は八日与えているのでそれ以上与える必要はなく、労働時間短縮については特別休暇は試験的に導入したもので日数の統一はできず、特殊業務手当については日勤者は寮母の補佐にすぎず夜勤もないので支給することはできず、差額手当の支給基準については基準がないので回答できず、事前協議制については理事会に諮って前向きに検討したいとの内容であった。そこで、福井が、竹中の右回答に対し、内容について具体的な説明を求めたが、竹中は、原告における賃金算定資料や算定根拠等の賃金制度の実態、年次有給休暇の付与実績、特殊業務手当の内容等に対する知識が皆無であり、そのうえ、メモ以上の回答をする権限がないとして説明を拒否したこと、そのため、福井は、竹中に対し、次回の団体交渉には賃金などの実務が分かり、かつ一定の決定権を有する者と、施設長ら現場の業務を理解する者を出席させること、生駒園の就業規則を職員に明示するとともに補助参加人に提出すること、組合かわきた園支部宛郵便物を勝手に開封したり返送することをやめ、同支部役員に手渡すこと、日勤者の終業後であっても職場での飲酒等をしないこと、次回の団体交渉は平成五年四月第二週に開催することを要求し、本件団交が終了した。

(三)  その後、竹中は、同年四月九日、補助参加人に対し、電話で、同年三月三〇日に要求された事項について回答したが、その内容は、補助参加人の要求をいずれも拒否するものであった。その際、福井において、原告代表者の団体交渉出席を求めたが、竹中は自分以外の者の出席を拒否し、また、次回の団体交渉の開催も約束しなかった。そこで、補助参加人は、同月一四日、二・一九団交申入れについての団体交渉応諾を求めて、被告にあっせんを申請したところ、原告は、同月二八日、団体交渉に応じるとして、あっせんを辞退した。

2  原告は、本件団交において、竹中は単にメモを読み上げるにとどまらず、補助参加人の要求事項に対し、十分に説明したと主張するが、(証拠略)によれば、竹中自身、メモに書いてあること以外は回答しなかったと述べるところであって(〈証拠略〉)、右原告主張事実は認めることができない。また、原告は、補助参加人が、本件団交の席上で何らの説明をも求めなかったので、説明拒否があり得ないと主張するが、補助参加人がその要求が拒否されたのに何らの説明も求めないということがあるわけがない。竹中が、本件団交において、福井から質問を受けていることは、(証拠略)に記載の竹中の供述から明らかである。

3  労働組合法七条二号には、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することが不当労働行為として禁止されているところ、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったと認められないような場合にも、右規定により不当労働行為に該当すると解される。すなわち、使用者は単に労働組合の要求や主張を聞くだけではなく、それら要求や主張に対しその具体性や追及の程度に応じた回答や主張をし、必要によってはそれらにつき論拠を示したり必要な資料を提示する等誠実に交渉する義務を負うと解される。

これを本件においてみるに、前記認定のとおり、原告を代表して本件団交に出席した竹中は、補助参加人の二・一九団交申入れ中の要求事項について、単に形式的一般的な回答が記載されたメモを読み上げたにとどまり、地場賃金の額等の資料を提示せず、具体的な説明もしなかったし、福井からの質問にも権限がないことを理由として一切回答しなかったうえ、補助参加人が、更に説明等を求めるために、回答能力があり、回答権限のある者の出席する団体交渉の開催を求めたのに、団体交渉の約束をしないばかりか、これに回答能力又は回答権限のある者の出席を拒否し、そのため、補助参加人において、再度団体交渉応諾のあっせんを申請しなければならなかったのであるが、これらの一連の対応をみれば、原告は、資料を提示したり、説明を加えたりしてなされる実質的な団体交渉を避けていたというべきであり、原告の本件団交における交渉態度は不誠実であったといわなければならない。

なお、原告は、本件団交の席上で補助参加人から新たに提出された要求事項について、団体交渉を開催できない間の応急策として、平成五年四月九日、竹中が補助参加人に電話で回答したのであるから、原告の交渉態度全般を評価すれば誠実なものであったというべきであるし、同年一一月一五日以降は交渉担当者を増加したうえ団体交渉に応じたのであるから、既に不当労働行為の事実がなかったと同視しうる状態になったと主張するが、竹中がした回答の内容は、補助参加人の要求をすべて拒否するものであって補助参加人における団体交渉の必要性を減少させるものではなかったし、原告主張の平成五年一一月一五日以降の団体交渉は、六か月も後のことであって、仮に、これが誠実に開催されていたとしても、本件団交が不当労働行為に当たるか否かの判断を左右するものではない。

4  したがって、原告による本件団交の協議態度について労働組合法七条二号の団体交渉拒否に該当するとした被告の判断は正当であり、現在においても被救済利益が消滅したとはいえず、被告が右判断に基づいて裁量の範囲内でした本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書の(2)項に関する部分は適法である。

四  本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書(3)項に関する部分(郵便物の開封及び返送)について

1(一)  弁論の全趣旨によれば、原告が、平成五年一月一九日、同月二三日、同年二月一九日の三回にわたり、補助参加人から組合かわきた園支部宛に送付された郵便物を開封したことが認められる。

(二)  原告は、右開封は、かわきた園への郵便物が大量であることと、開封された郵便物が市役所等の公共団体からのかわきた園宛の郵便物に酷似していたことから、単に事務処理上の過誤からなされたものにすぎない旨主張する。

しかしながら、(証拠略)によれば、かわきた園へ配達される郵便物は一日当たり二〇ないし三〇通程度にすぎなかったことが認められ、(証拠略)によれば、原告が開封した郵便物は、色及び大きさが一定しておらず、いずれもその表面下部に補助参加人名が差出人として大きく印刷され、表面中心部に組合かわきた園支部名が宛先として明記されていたと認められ、これによれば、通常の注意力をもってすれば、組合かわきた園支部宛の郵便物と市役所等の公共団体からのかわきた園宛の郵便物とを区別することはたやすいもので、これを誤認したとは到底考えられない。むしろ、(証拠略)によれば、緑間は、平成五年一月二七日及び同年二月一日、福井から、組合かわきた園支部宛郵便物を伴に対して交付するよう要求されたことが認められ、それにもかかわらず、右要求後の平成五年二月一九日にも原告により右郵便物の開封がされたこと、右郵便物の開封は比較的短期間である約一か月の間に三度という比較的高い頻度で繰り返されたこと、(証拠略)によれば、同じく原告が経営する生駒園では郵便物の開封がされなかったことが認められることからすると、右郵便物の開封は、原告が意図的にしたものであるといわざるを得ない。

2(一)  (証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、補助参加人の組合かわきた園支部宛の平成五年一月一九日付け及び同月二三日付け郵便物を開封のうえ同月二九日に、同年二月一二日付け郵便物を同月一五日に、三月二一日付け及び同月二三日付け郵便物を同月三一日に、同月二六日付け郵便物を同年四月一日に、同月三日付け郵便物二通を同月六日に、同月一〇日付け郵便物を同月一三日に、同月一六日付け郵便物を同月二〇日に、同月二八日付け郵便物を同年五月六日にそれぞれ返送したこと(合計一二通)、緑間は、平成五年一月二七日、福井から、補助参加人からそのかわきた園支部宛に送付する郵便物を伴に手渡すように求められ、「分かりました。」と答えたこと(緑間は、これを福井の言葉が分かった趣旨であるというが、詭弁というべきである。)、かわきた園の従業員宛のダイレクトメールや私信が郵送された場合、これを当該従業員に手渡していたことが認められる。

してみれば、緑間は、組合かわきた園支部宛の郵便物と他の従業員宛の郵便物を区別して扱ったもので、これに合理的理由があるとは認められず、前述の郵便物開封の件を併せ考慮すれば、労働組合宛の郵便物であることを唯一の理由として返送したといわざるを得ない。

(二)  原告は、かわきた園には組合かわきた園支部の事務所は存在しなかったので、組合かわきた園支部宛郵便物を補助参加人らに手交するか否かは専ら原告の施設管理権の問題であるところ、従前から入所老人宛の郵便物以外は原則として受け取らない旨の慣行が成立していた旨主張するが、前述のとおり、かわきた園宛の郵便物は多くても一日当たり三〇通程度でしかなく、あえて入所老人宛の郵便物以外を返送しなければかわきた園の事務に支障を来すほどの状態であったとは到底考えられないし、現実に従業員宛に配達されたダイレクトメールや私信は当該従業員に手渡されており、入所老人以外へ宛てた郵便物を返送する慣行があったとは認められず、これに反する(証拠略)の記載は信用することができない。

また、原告は、緑間が組合かわきた園支部宛郵便物を伴に交付するという便宜供与をする権限がないと主張するが、これは右郵便物の取扱いが支配介入となるかどうかの問題であって、便宜供与となるならないによって結論が異なる問題ではない。

(三)  以上によれば、原告がかわきた園に配達された郵便物のうち、補助参加人の組合かわきた園支部宛の郵便物に限って、返送したことは支配介入として不当労働行為に該当する。

3  原告は、平成五年二月一日、福井が緑間から郵便物の開封について文書で謝罪されるや「今回は仕方がない。」として宥恕したこと、緑間が同年六月七日以降組合かわきた園支部宛郵便を(ママ)伴に交付していることからすると、既に被救済利益が消滅した旨主張する。

しかし、前記1、2認定のとおり、原告は、右郵便物を三回も開封し、かつ合計一二通も返送したこと、右返送及び開封が福井の右発言の後、本件救済命令申立ての日(平成五年五月一八日)の直前まで続いたことからすれば、行為態様自体が悪質で、かつ原告は執拗にこれを繰返したというべきであるから、将来において同種の不当労働行為が繰り返される危険性は高いというべきであり、現在においても、被救済利益が消滅したとはいえない。

4  したがって、原告による組合かわきた園支部宛郵便物の開封及び返送について労働組合法七条三号の支配介入に該当するとした判断は正当であり、現在においても被救済利益が消滅したとはいえない以上、被告がその正当な判断に基づいて裁量の範囲内でした本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書の(3)項に関する部分は適法である。

五  本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書の(4)項に関する部分(補助参加人支部役員に対する誹謗中傷)について

1  (証拠・人証略)、原告代表者の尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告代表者は、平成五年一月七日、「騒動記」(〈証拠略〉)を作成し、また、同月一三日ころ、「復職について」(〈証拠略〉)をかわきた園の寮母室に張り出した。

右「騒動記」には、かわきた園には寮母一一名中年輩の五名がグループを作り、そのために「老人不在」で「寮母主体」の老人ホームが形成され、大阪府より日常活動及びリハビリが少ないとの注意指導を受け、原告代表者が今後かわきた園を改善する旨の誓約書を大阪府に提出したこと、緑間が六万寺園、生駒園を参考にかわきた園改革に努力したが、右年輩寮母グループから反発を受け、かわきた園の「まじめに働く職員」や「老人介護サービス」向上のため、「正常化」を願い一連の人事をしたことに加え、右年輩寮母グループの寮母としてのふさわしくない行為が他の寮母の見聞を収録した形で四四項目にわたって記載されている。

ところで、緑間が副施設長に就任して以来、ホーム喫茶など数々の新たな行事の導入を図り、これに新屋及び伴を含む五名が反対してきたことは、前述のとおりであり、(証拠・人証略)によれば、このトラブルの結果、原告代表者が、同年八月二八日と二九日の両日、かわきた園寮母全員と面談し、新屋らが行事に反発することに対する批判を聞きとり、次いで、同月三一日に伴を素行不良等の理由で解雇し、同年九月一日に新屋を生駒園に出向させたが、これらのことは、かわきた園の従業員全員の知るところであったことが認められる。そこで、「騒動記」に記載された年輩寮母五名については、その氏名等人物を直接特定するに足りる事項は記載されていないものの、これを見聞きしたものにとって、これら寮母五名が新屋及び伴らの五名の寮母を暗示するものであることは、容易に判明することであった。

(二)  「騒動記」の内容は、新屋らの行動に対する批判を挙げ連ねたもので、これを氏名が判明する形で公表することは、新屋ら個人の名誉を毀損するといってよいものであるところ、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成五年一月八日、新屋以外のかわきた園従業員、生駒園、六万寺園の全従業員にこれを配布し、その感想を集めて、「かわきた園騒動記を読んだ各園職員の感想」と題する文書(以下「感想」という。)(ママ)作成し、同年二月二日には、関をして、新屋に対し、「騒動記」及び「感想」を手渡したこと、また、これに先立つ同年一月八日に、伴の解雇に関して、伴から提起された地位保全等仮処分事件において、伴が原告の従業員としての地位を有することを確認する旨の決定がされ、原告は、これに従い、同月一四日から伴の復職を認めたが、その前日である同月一三日には、前記「復職について」を寮母室に張り出したこと、「復職について」は、伴の寮母としての適性に疑問を投げかける内容であり、その名誉を傷つける内容であること、また、原告は、同年三月二二日のかわきた園新入従業員のオリエンテーションの場で、「騒動記」を読み上げたことを認めることができる。この同年一月から三月という時期は、前述のように、原告が、組合かわきた園支部宛郵便物を開封したり、返送したりする不当労働行為を繰り返した時期であるが、以上を総合考慮すれば、右各文書の公表は、新屋や伴ら個人に対する批判としての域を著しく超えており、原告は、右文書により、補助参加人組合員である新屋や伴を誹謗し、攻撃することによって同人らを他の従業員から殊更に隔離し、従業員の補助参加人加入を阻止する意図をもっていたと認めざるを得ない。

3(ママ) 以上によれば、原告が「騒動記」「復職について」の二つの文書を作成、公開したについて労働組合法七条三号の支配介入に該当するとした被告の判断は正当であり、被告がその正当な判断に基づいてした本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書の(4)項に関する部分は適法である。

六  本件救済命令主文第2項の交付を命じた文書の(5)項に関する部分(特別休暇の廃止)について

1  (証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告及び秀英会は、いずれも、平成三年六月以降、かわきた園及び生駒園において、毎月一日ないし二日、就業規則に規定のない特別休暇を従業員に与えていた。原告は、平成四年一一月のかわきた園寮母求人広告において、毎月二日の特別休暇を与える旨記載している。ただし、就業規則にはその記載はないし、同月以降雇用の従業員についても、雇用契約書に特別休暇を付与する旨の記載はなく、その実施も従業員の定数が不足しているときは実施しない等、必ずしも継続的になされたものではなかった。

(二)  福井は、平成四年九月二二日、補助参加人を代表して原告と団体交渉した際、特別休暇が六万寺園では実施されておらず、かわきた園と生駒園では付与日数が異なったことから、右三園で特別休暇日数を統一するように要求した。

(三)  関は、平成四年一一月三〇日、生駒園の寮母会議において、「特別休暇の支給についてのとりきめ」と題する原告及び秀英会連名の文書(〈証拠略〉)を読み上げ、同時に読み上げた「職場の心得(老人ホーム)」と題する書面とともに、寮母全員に署名するように求めた。「特別休暇の支給についてのとりきめ」と題する文書には、「『職場の心得(老人ホーム)』の目標に『近づけていただく』か『すでに努力していただいている』職員の皆様に規定の休日以外に『特別休暇を支給』したいと思います。もとより『職場の心得(老人ホーム)』を守っていただくことが前提ですので、これらに違反する職種、又は職種に欠員ができたときは『特別休暇』の支給を中止いたします。」「後日『特別休暇の支給』についての主旨やこれら中止のときに異議なきことを表す為に署名を求めるものであります。尚当法人の経営方針や老人介護サービス、老人介護に対する考えの異なる人は静かに退職して下さい。」との文言とともに、従業員の署名欄が記載されていた。

新屋は、平成四年一一月三〇日ころ、右各文書に署名を求められたが、右各文書に納得のいかない点があったので補助参加人に相談したところ、署名を留保するよう指示を受けたので、新屋は右各文書に署名しなかった。

福井は、新屋から従業員が右各文書に署名を求められていると聞き、原告に対し、同年一二月五日、右各文書への署名を求める趣旨について説明を求めるための団体交渉を申し入れた。

(四)  原告は、右団体交渉申入れ後の同年一二月ころ、「就業規則にない『特別休暇』の扱いについて」と題する文書(〈証拠略〉)を従業員に配布した。右文書には、「私は自分の考えで就業規則にない『特別休暇』(以下特別休暇という)を与えてまいりましたが、新屋寮母の属する組合の福井氏より一度与えたものは既得権(もらったら自分のものという考え)として取り消すことは難しいといわれました。」「社会情勢や職員の増減、違反行為等によって、これら『特別休暇』の増減や中止もありうると安易に考えていましたが、組合の福井氏のような考えであれば私の善意が通じず将来もめることは当然考えられるので即刻中止した方がよいかもしれないと思っております。」「尚、生駒園の新屋寮母のみが組合に属しており、『特別休暇』のサインをもらっておりませんので、生駒園の寮母職は特によく議論して廃止かどうか良い方法を考えて下さい。一二月中に結論を出して下さい。」と記載されていた。

(五)  原告代表者は、平成四年一二月二二日、補助参加人との団体交渉に応じ、その席上、「職場の心得(老人ホーム)」及び「特別休暇の支給についてのとりきめ」と題する文書への署名は強制ではない旨回答した。

(六)  補助参加人は、平成五年二月一九日付け団体交渉申入書において、特別休暇を三園で毎月二日付与することに統一するよう要求事項を掲げたが、原告は右申入れに応じる前である同年三月五日、生駒園に特別休暇に関する文書を掲示した。右文書には、「当園では労基法(就業規則も同じ)の定める休日以外に各園の事情に応じて特別休暇を与えてきましたが、今回組合より特別休暇についての扱いを制度化するよう申入がありました。」「しかし週四四時間制(平成六年の可能性)、週四〇時間の可能性(平成九年)以降への準備のために職員の労働負担、老人介護の質の問題について調査研究をしてきました。」「好意で始めたことが将来的にそのことがもとでもめごとが生じるのであれば、もめない為には労基法(就業規則も同じ)通りするのが一番の対策であります。」「四四時間、四〇時間体制の調査は約一年を経過したこともあり、この三月でうち切る。職員がまとまったときに再度検討する。」との文言が記載されていた。

(七)  奥村と緑間は、同月六日のかわきた園の寮母会議の席上で、補助参加人が特別休暇の制度化を要求しているが、その件について従業員に署名を求めたものの一部が署名しないために、四月から特別休暇を廃止する旨発言し、同時に伴に対し、特別休暇に関する文書に署名するように求めたが、伴はこれを拒否した。

(八)  平成五年三月七日、生駒園において、特別休暇に関する文書が掲示された。右文書には、「今回労働組合から文書にて、現行特別休暇を制度化せよとの申入があった。」「本来、この特別休暇は現行労基法に定めている公休日以外に職員の労働負担軽減の為、経営者側の好意で人員を充分に確保して支給されている。」「以上主旨の特別休暇はこのまま続けて慣習化すれば、法律的には『労使間の長年の慣行は労働契約の内容』となり、上記の主旨の取り扱いは出来なくなります。よって今、経営者は、現行の特別休暇を取り止めるべきか迷っています。(支給したい考えではある。)各自の意見を求める。」との文言が記載されていた。

(九)  原告は、同年四月以降、特別休暇の付与を廃止した。

2  なお、(証拠略)には、特別休暇が、かわきた園においては、平成三年六月以前にも存在し、新屋が平成二年一一月にこれを取得したとの記載があるが、右は新屋が、同年の即位の礼に伴う休日と誤解している節もあり、他に、その存在を裏付けるものはなく、右各(証拠略)の記載は採用できない。

3  右認定の事実によれば、原告は、補助参加人から特別休暇の制度化を要求されるや、そのために紛争が生じる畏れがあるから廃止を考慮せざる得ないといった文書や補助参加人員(ママ)が右休暇を恩恵によって与えられることを確認する旨の文書に署名しないのでこれを廃止せざるを得ないといった書面を張り出すなどして、特別休暇の廃止に至ったのであるが、特別休暇が労働契約の内容となっているか、恩恵によって与えられているものかにかかわらず(ただし、求人広告に付与する旨を記載しながら、これを恩恵的なものであるから与えなくてもよいというのは疑問である。)、右各書面の内容及び廃止に至る経緯を考慮すれば、補助参加人の制度化要求を逆手にとり、従業員の補助参加人及び組合かわきた園支部に対する反感をあおり、同支部役員が職場で孤立化することを意図してしたものであるといわざるを得ない。

4  したがって、原告が特別休暇に関する文書に新屋、伴の署名を得られなかったことを理由にかわきた園の特別休暇を一方的に廃止したことについて労働組合法七条三号の支配介入に該当するとした被告の判断は正当であり、被告がその正当な判断に基づいてした本件救済命令主文第2項交(ママ)付を命じた文書の(5)項に関する部分は適法である。

七  結論

以上によれば、原告の請求は、本件救済命令主文第1項及び第2項の交付を命じた文書の(1)項に関する部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六四条、六六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 松尾嘉倫 裁判官 森鍵一)

《別紙》 【命令書】

申立人 ユニオン・おおさか

代表者 執行委員長 新村賢二

被申立人 社会福祉法人忠恕福祉会

代表者 理事長 松下孝

上記当事者間の平成五年(不)第二五号事件について、当委員会は、平成七年一二月二七日の公益委員会議において合議を行った結果、次のとおり命令する。

主文

1 被申立人は、申立人組合員新屋浩世の平成五年度定期昇給額を八〇〇〇円として賃金額を是正し、既に支払った額との差額及びこれに年率五分を乗じた金額を支払わなければならない。

2 被申立人は、申立人に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。

年 月 日

ユニオン・おおさか

執行委員長 新村賢二殿

社会福祉法人忠恕福祉会

理事長 松下孝

当法人が行った下記の行為は、大阪府地方労働委員会において、労働組合法第七条第一号、第二号及び第三号に該当する不当労働行為であると認められました。今後このような行為を繰り返さないようにいたします。

(1) 平成五年度定期昇給において、貴組合かわきた園支部長新屋浩世氏を不利益に取り扱ったこと。

(2) 平成五年三月三〇日に行われた貴組合との団体交渉において、誠実に協議しなかったこと。

(3) 貴組合からの平成五年一月一九日付け、同年一月二三日付け及び同年二月一九日付けの貴組合かわきた園支部宛郵便物を開封し、また、貴組合かわきた園支部宛郵便物一二通を貴組合に返送したこと。

(4) 「かわきた園騒動記」と題する文書を作成の上、平成五年三月の新入職員オリエンテーションにおいて同文書を読み上げ、また、貴組合かわきた園支部書記長伴シヅ子(ママ)氏の復職に関して、同氏の解雇撤回後も、「伴寮母の復職について裁判所の見解と今後のとりくみ」と題する文書の掲示を続けたこと。

(5) 貴組合かわきた園支部役員が特別休暇に関する文書に署名しなかったことを理由に、特別養護老人ホームかわきた園の特別休暇を一方的に廃止したこと。

第一 認定した事実〈以下、略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例